想起、とある町中華にて
―若市の首都、更築。とある一軒の中華料理屋。
店主:はいよ、いつものラーメン、大盛りだよ。
聖:わーい、ありがとうございます!
聖:(学生時代に見つけたこの店、気付けばもう5年は通っているなぁ。アットホームな食堂って感じだけどラーメンの美味しさは本物だ。正直色々試したけどここに勝るものは無い。)
店主:しかし驚いたもんだよ。あの聖くんが社長さんでしょ?見た目は全然変わってないのにねぇ。
聖:そうですか?あ、でも店に来る時間帯は変わったでしょ。
店主:そうだ、最近は随分遅いよね。いやあ、やっぱお仕事忙しいんだね。まあでもおじさんの中では大企業の社長さんって言うとさ、こう高そうな椅子に座ってふんぞり返っているイメージが強いけどね。
聖:わかる、わかる。でもおっちゃんだってこの店の店主、ある意味社長みたいなもんだけど遅い時間まで働いてるじゃん。ここが遅くまでやってて助かってるけど。
店主:いやいや、俺はそんな偉いもんじゃねぇって。ただお客さんに料理を振る舞うのが好きだからやってんだ。
聖:それでもすごいよ。普通夜の10時過ぎまで働きたいと思う人いないって。
店主:おいおい、さては聖くん餃子のおまけが目当てだな?
聖:いや素直におっちゃんに感謝してるんだよ。俺だって自分で稼げる歳になったんだしそんなせこいことしないって!でも今ので餃子も食べたくなったな。1つちょうだい!
店主:はいよ。じゃあ少しおまけ付けとくな。
聖:ありがとう。結局おまけしてくれるんだね。
店主:そりゃあな。聖くんはたくさん食べてくれるしさ。
?:よー、店主。ほんと遅くまでご苦労だぜ。
店主:お、新井のあんちゃん。珍しいねこんな時間に。
新井:なーんか腹減っちまってよ。そこの兄ちゃん、隣いいか?
聖:あ、はい…。
聖:(見たことない人だな。でも店主との会話からして常連さんだろうな。…しかし今の時代和装なんて珍しい。見た感じ20代か30代、せいぜい40代くらいだろうけどそういう仕事の人なのか単に古いものが好きな変わり者か。)
新井:まずはビールだな。あと適当な余りものでもいいからうまいもん!
店主:はいよ。とりあえず先にビール出しとくね。
新井:サンキュー!兄ちゃんも一杯どうよ。
聖:いや、俺酒は飲まないので…。
店主:そういえば聖くん成人してからもここでお酒飲んでいるところ見たことないねぇ。飲めない体質なのかい?
聖:いや、お酒を飲むくらいだったらラーメンを飲みたいだけだよ。
新井:ラーメンが飲み物ときたか。兄ちゃん面白いな。
店主:ほれ、新井さんも餃子だ。仕入れすぎて材料が余ってんだ。
新井:おっ、うまそー!ふー、ふー、(息を吹きかけ熱々の餃子を冷ましている)
聖:熱い方が美味しいですよ?
新井:そうなんだろうけどな、俺熱いもの食べるとドロドロに溶けちまうんだ。
聖:えっ、そんな馬鹿な。
新井:冗談だよ。ただの猫舌ってやつだ。
聖:(何だこの人、もう酔ってるのか?酔っ払いの相手は面倒だな…)
新井:時に兄ちゃん、聖電鉄の社長さんだろ。
聖:!?
新井:そんな驚くことか?意外と有名人だぜ。…いい意味でも悪い意味でも、な。
聖:(「悪い意味でも」って…。確かにその通りだが失礼な人だな。)
新井:俺は応援してるぜ?新しいものが好きだからな。”新”井だけに。
聖:いや、その駄洒落は面白くないですよ。
新井:おお、これは手厳しい。まあ冗談はさておき、お前さんの「時間を創出する」という理想には惹かれたぜ。人間ってのは生きるために頭をフル回転させていて面白い。
聖:?それはどういう…
新井:さて、腹も満たせたし帰るか。店主、美味かったぜ!
店主:おう、また来てな!
聖:えっ、ちょっと!
聖:…。なんだったんだ、今の人は…。
新井:危ない、危ない。ついボロを出すところだったぜ。…にしても三又聖、か。あいつも面白い友人を見つけたな。