想起、定期考査頂上決戦
―理研特区電子工学研究科付属高校。2学年フロア、廊下にて。
松岡:なんだぁ、あの人だかりは。
生徒A:えっ、冗談だろ?
生徒B:まさかよりによってお前が知らないってことはないだろうに!定期考査頂上決戦をな。
松岡:定期考査頂上決戦だって?いつから定期考査はそんな謎のイベントになったんだか…
生徒B:嘘だろ…松岡お前それでもあの2人の友達かよ…
松岡:あの2人?
須藤:さあ、倉持!デッキの用意はいいか?
倉持:当然だ。俺は全ての勤勉な生徒たちの期待を背負っている。悪いがこの勝負勝たせてもらうぞ。
須藤:お、俺は…そうだな、俺の期待を背負っている!いずれにせよお前に負けることはできん!
倉持:覚悟は十分なようだな…。しかし進行役が欲しいな。
須藤:おいおい、倉持。お前の目は俺しか見えていないようだな。ほら、ちょうどいいのがいるぞ。
松岡:(騒ぎの中心はお前らかよ!須藤はともかく倉持まで何やってんだ!)
生徒A:なあ、須藤がお前のこと呼んでるっぽいぞ。こっち見て手招きしてるぜ。
松岡:何も見えん。俺はあんなやつ知らん。
生徒B:あ、こっち来た。
須藤:無視は感心しないな、松岡。
松岡:やめろ、俺はこいつとは無関係だ!巻き込まないでくれ!!
倉持:困ったな、俺らに忖度もせず、不正もしないゆえちょうどいい人材だと思ったが…。
須藤:こりゃ強制連行かな。(松岡を抱える)
松岡:おい、やめろ!わかった、協力してやるからおろせ!俺を晒し者にするな!
松岡:…。そ、それでは須藤対倉持、定期考査頂上決戦を始めます。
生徒たち:いえええええい!!!!
松岡:(いやなんでこんなに盛り上がってんの!?お前ら他に娯楽無いの?)
松岡:えー、御存じの通り定期考査頂上決戦は中等部時代から常に成績トップを取り続けている須藤、倉持の両者が己のテスト成績を持ち寄って今度こそは決着をつけようと競うイベントです。勝者に賭けた生徒は購買の無料券が1枚…いや賞金ショボいな!!
須藤:いつの間にか規模がデカくなってしまったからな。流石に俺たちの財布事情もある。
松岡:ああ、そう…。にしてもお前らが全科目満点取ってるから決着がつかないんじゃないの?
倉持:松岡、お前この学校のある制度を忘れてないか?
松岡:ある制度?
倉持:得点の上限突破システムだ。より高度な回答を書いた場合設定されている満点以上の点数が取れる。
松岡:ああ、あの都市伝説みたいな制度ね…。マジで120点とか取るやつなんて見たことないから完全に忘れてた。
松岡:(なるほど、理系科目以外駄目そうな須藤がいつもトップを取っていたのはそういうことだったのか。この学校じゃなかったらあいつは落ちこぼれだな…)
松岡:…気を取り直してそろそろ勝負に行きますか!みなさん準備はOKですか!?
生徒たち:いええええええい!!!
松岡:…では第一科目は国語!国語は現代文と古典合わせて200点満点。えーと、先攻は?
倉持:ふっ、では俺からいかせてもらおう。
松岡:どれどれ…おおっと、いきなり満点!!!倉持、持ち点200!
須藤:流石倉持。俺はこれね。
松岡:…!須藤100点と70点で持ち点170!いきなり差がついたぞ!
須藤:まあ俺古文20点だからね。漢文は満点だけど。
倉持:ドヤ顔で言うことではないがな…。さて、次は数学か。
須藤:こいつは自信あるぜ。
松岡:さて、第二科目目は数学!国語でリードを見せる倉持、このままいけるか!?
倉持:…さすがにこれがベストだと思うがな…。
松岡:お、数学も倉持から開示か。どれ…おおっ、またまた満点!数Ⅱ・B共に100点満点で数学は200点!これで倉持の持ち点は国語と合わせて400!
倉持:まあ当然だろう。
生徒たち:さすが倉持、やっぱ今回もオール満点かな?
生徒たち:でも毎回二人の決着がつかないということは…
須藤:おいおい、200点が満点なんて誰が決めたんだよ。
松岡:は…?お前まさか…
須藤:よーく見ろ、これが天才の答案だ!(解答用紙を投げる)
松岡:おい、普通に出せ!(2枚の答案をキャッチする)
松岡:どれ…うわ、まじか!須藤、数B100点、数Ⅱ150点!!
生徒たち:マジかよ…一体何を書けば50点も多く稼げるんだ…
松岡:これで倉持が持ち点400、須藤が持ち点420!上限突破システム頼りの須藤が堅実に満点を取る倉持をリード!
生徒たち:嘘だろ…やっぱ真面目にやっても天才には勝てないのか…?
松岡:(さて、このしょうもない勝負もクライマックスだ。現在4科目が終わり倉持は600点、須藤は550点…。社会科で須藤が30点とかいうありえない低得点を出したことで50点差になったが挽回できるのか…?)
倉持:須藤…30点は赤点じゃないか…。
須藤:でも見てろよ、理科で華麗に逆転してやるからな。
倉持:それが出来てしまうのがこのシステムの欠陥だな…。
松岡:さあ、定期考査頂上決戦も残すは1科目!理科は物理と化学の合計点で競うことになっていますが、果たして須藤は社会科で大きく開いた差を埋めることができるのか!?
倉持:展開的には俺が先に出した方が盛り上がるだろう。ほら。
松岡:あ、ああ。倉持の点数は…物理100、化学100で理科も200点満点!これで全教科満点!
生徒たち:さすが倉持!こいつが点を落とすところを見たことないぜ!
松岡:さて、残すは須藤の点数のみ。おっと、物化共に上限突破だ!物理130点、化学120点で計250点!!
生徒たち:やべぇ、まさか両方上限突破って…
生徒たち:やっぱあいつバケモノだよ…
生徒たち:待てよ、ってことは…
松岡:倉持の持ち点は全科目満点で800点、一方須藤は理科で50点の点差を埋め、持ち点800。よってなんと両者引き分け!!
生徒たち:またか!!
生徒たち:結局賭けで儲けることはできないのか…
生徒たち:解散だな…
松岡:…やっと人がいなくなったな。それにしてもお前ら…特に須藤は手を抜いているんじゃないか?
須藤:どういうことだ?
松岡:まさかお前ほどの頭脳で赤点なんてありえないだろ。
須藤:それを言うなら倉持だって手を抜いてるんじゃないか?
倉持:なに?俺はしっかり全科目満点を取っているじゃないか。
須藤:俺の理数科目の答案見ろよ。これくらいお前にもできるだろ?
倉持:俺はただ高校数学および高校理科の範囲で回答しているだけだ。
松岡:(倉持は実力を抑えて満点の域内に留まっている。須藤はそれをわかったうえで合計点が800点になるように社会科のような暗記科目はあえて勉強せずに挑む…。…まさかとは思うが、こいつら卒業まで引き分けを続けるつもりか?)
倉持:松岡も変なことに巻き込んですまないな。
須藤:ん?どうした松岡。
松岡:(引き分けを続ければギャラリーに賞品を渡さなくて済む。ああ、本当にこいつらは意地の悪い仲良しコンビだよ。)